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発端は、2件の事故だった。

1件は釜本が某田舎道を走っていたら、対向車の初心者マーク女子大生キャンバスがセンターラインをハミって釜本4トンの右前をコスった後、ストレートに畑へダイブしたという事故。
もう1件は吉田がバースの狭めな倉庫へ積みに行って、隣りのトラックのサイドミラーをケツで押し「ホント全然気がつかなかったよね」状態で出て来てもーて、当て逃げ扱いな事故。

釜本の事故は相手がセンターラインをハミっている時点ではっきり言ってもらい事故だし、釜本はほぼ被害者と言っていい。
吉田のは本当に気がつかなかったのかもしれないけど、バックモニターはあるわけだし、それを見ていれば「ミラーが近いな」と分かるし、「当たるかも?」と思ったならトラック降りて目視しに行けばいいだけの話。でも、吉田は以前から、
「俺はバックモニターが無いトラックもさんざん乗ってきたし、そもそもサイドミラーでだいたい分かるだろ! バックモニターに頼らないと下がれないなんてぺいぺいみたいでダサ過ぎだろ〜」
などと吹聴しておきながら、さんざんぶつけてるてめえの方がよっぽどダサいことに気が付かないおめでたいシト。

ミーティングで二人の処分が発表された。

釜本は反省文&最低2週間の乗務停止。トラックに乗れない間は倉庫作業や車庫の草むしり、待機しているトラックのタイヤの溝に挟まっている小石取りwなどの雑用。
で、吉田はナント!反省文をペロっと1枚出したらそれで終わり。乗務停止などもなし。

…黄金のトライアングル効果、あからさまに出ちゃってるよね。

専務の説明によれば、釜本の事故はケガ人が出ている上にトラックも修理が必要。吉田の事故はただの物損事故だし、相手のミラーの修理費は吉田が自腹で払うと言っているので、会社には特に損害がなーいーかーらー。

「ケガ人いうたって、女子大生がセンターハミって勝手にぶつかってきて勝手に畑へダイブして勝手にケガしたんでしょ? それって釜本に何か責任あるんすか?」

と、木下が素朴な疑問を口にしたところ、専務、

「木下くんのその感覚はいたって普通の感覚なんだというのは分かる。でも、社長とも話したんだけど、なんて言うのかなあ、こういう事故が起きちゃうってことはつまり、釜本くんが道路の神様に愛されていないってことなんだよね。だってそうだろう? もしも愛されていたのなら、こんな風に女子大生が突っ込んでなんて来ないでしょ。わかるよね? 釜本くん、あなたはドライバーには向いていませんよお、ついでに言えばこの会社にも向いていませんよお、って道路の神様が親切に教えに来てくれたために起こった事故。そういうことなんだよそういうこと。ほらね、分かっちゃえば極めて簡単な話なんだね」

で、出たあー! 専務のアホ丸出し謎説法。

続いて社長が、
「今回の事故だけでなく、この半期も何かと物損、商品を問わず事故が多くて会社として利益をまったく出せておらず、誠に遺憾ではありますが今期もボーナスを支給できるような状況にありません」

と言い、神妙な顔をして頭を下げる推定2600万円の車に乗る人。続けて、

「会社がこういう状況なので専務とも相談したんですが、誠に申し訳ないけれども買取ビジネスの年間トップ賞の支給も見送らざるを得ない、という結論になりました。ご承知おきください」

これ。これです。うんこ零細運送屋の賃金支給なんて、実際のところ社長のさじ加減一つでどーにでもなっちゃうわけなんです。

まーでも。
年間トップ賞の支給有無なんて、実質、新田にしか関係ないことだしな。
別にもーどーでもええわ。どーでもいいですよ。

と思っていたら、「バシーーーーン!!」と机を叩く音がした。

永田だ。
いつの間にか鬼の形相をしている。

「おいおいおいおい! 社長、何言っちゃってんの? 買取ビジネスについては、俺と約束しましたよね? 年間トップ賞についても納得してたよね? それを見送る? ハァ? 俺はなんも聞いてない!」

何か言おうとした社長を専務が制し、

「永田さんにはもちろん事前に言うつもりだったんだけど、ここんとこ引っ越しでずっといなかったじゃない? 言いたくても言う機会がどうしてもなかったっていうのがホントのところなんだよね。別に隠してたわけでも秘密にしていたわけでもなんでもない」
「あのさー。そんなの、別に電話でいいじゃん。引っ越しは基本ツーマンなんだから、移動中は電話に出られるし、俺が移動中かどうかは事務所で判断できるだろ。専務さー、もうそういう小学生みたいなしょーもない言い訳やめろよ」

うはあ!
永田、マジやぞ。マジやぞ、永田!

「社長だって年間トップ賞を出したいに決まってるだろ! でも、無い袖は振れねーんだよ。そんくらい分かるだろ!」
「ハァ? 無い袖え? 買取だけで言えば全然クロだろ。まずは袖を食い荒らしてるアホの害虫をクビにしろよ。そもそも何で釜本だけ乗務停止なんだよ。おかしいだろ。社長、この処分で本当に安全を最優先してるって俺に胸張って言えますか?」
「おい永田、俺との話はまだ終わってねーぞ!」

専務と永田、足を止めての近距離での打ち合いや。

専務がブチ切れて何か投げたらそれが始まりのゴング。やがて取っ組み合いになるも、最後は永田が専務の顔面に裏拳を鮮やかに決めて仕留めたりしたらオモロ過ぎやろ〜。ドライバー一同、ワクワクが止まらない!

が。
実際は社長が止めに入った。

「おい専務ッ、言い方ぁ! …永田さん、ごめんなさい。事前にちゃんと言っておかなかったのは私のミスです。本当に申し訳ない」

と、社長は永田に深々と頭を下げた。
永田もそれで鉾を収めるのかと思いきや、

「もうこの際だからハッキリしましょう。今のやりとりでよーく分かりました。専務がいる限り、この会社をナンバーワンにすることは絶対に無理です。それくらいの圧倒的な害悪、それが専務。社長、それ分かってます? 専務をクビにしてください。もし、それが出来ないのなら、俺が辞めます。社長、どっちか決めてください」

社長をにらむように見る永田。
どう答えるのか、みんなの目が社長に釘付け。

社長、ご決断をっ!!

「永田さん永田さん、ちょっと冷静になろうよ。ははっ。そもそもこんなこと、私と仕事どっちを取るの的に聞くようなことじゃないでしょ。私には、『空気と水、どっちを取るの?』と同じ質問に聞こえる。永田さんも大事、専務ももちろん大事。二人ともこの会社にはなくてはならない存在。どっちかなんじゃない、どっちもなんだぜ!」

……。
どっちもなんだぜ! …って、この「ぜ!」ホントにいるう??
いらないのは専務だけど、この「ぜ!」もたいがいいらんなー。

 * * *

「あのクソボケ、なーにがナンバーワンだよ。キャリアカーどーすんだよ。引っ越し用のカゴ車もアホほど仕入れておいたくせに、ぜーんぶほっぽって辞めやがったよ」
「送別会とか、皆さんお世話になりましたのあいさつとか、そーゆーもんないんすかね?」
「ハァ? そんなもんあるわけねーだろ。あいつ、どうやって辞めたか知らねーの?」
「どうやって辞めたんすか?」
「社長のとこにLINEが来たんだってよ。『たいちょう不良で退職します』って一行だけ。たいちょう、はなぜか平仮名で。ホント馬鹿にしてるよなー」
「え? ホントにそれだけ?」
「そう。で、もーまったく連絡取れないんだって。電話もLINEも音沙汰なし」
「マジっすか。それって、藤田の上をいってませんか?」
「あいつ、山ほど引っ越しの予定を入れたまま辞めやがったから、辞めた直後なんて、断り切れなかった引っ越しを専務と運行管理と吉田の3人で大あわてでやってたんだよ。ホント、迷惑なヤツだったよなー」


結局のところ、社長は永田というモンスターマシンを乗りこなせなかった、ということなのだろう。
ナンバーワンに向かって突き進む永田の手綱を握り続けていられず、手を離してしまったのだ。

そんな駄目ボスに見切りをつけ、永田は躊躇なく、さっさと逃げた。
「たいちょう不良で退職します」
というLINEを残して。

永田の行方は誰も知らない。

(完)

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これまでたくさんの「拍手」をしてくださった方、ありがとうございました。
その数に励まされて、ここまで書き続けることができました。感謝しています。
また何か新しいシリーズを書き始めた時には、どうか諦めずにお読みいただけたら嬉しいです。(´▽`*)



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