OKジョブシニア

永田の腹案は発表されて以降、社内では「永田システム」と呼ばれ、徐々に定着しつつあった。

3か月ほど経つと、個人のモチベーションによって成績に明らかな差がついていた。
トップ賞はドライバーとして今まで全然目立たない存在だった新田。この1か月で26台、3か月トータルで50台を超え、栄えある最初の四半期トップ賞に輝き、賞金5万円をゲットした。発見のみで終わって1台も買い取れていなかったとしても、発見報奨金1000円×50台超、そこにトップ賞の5万円で最低でも10万円を獲得、さらに買い取れた時のボーナス分も当然プラスされているだろう。

「新田くん、すごいねえ! この1か月なんて平日ベースで1日1台以上だよ。それも仕事しながらだよ。新田くん、実はそれ用のバイトでも雇ってんじゃないのお? アハハ。もう俺は今後3か月『素晴らしい』という文字はニッタと読むことにしちゃう! なんつって。アハハハ」

と、ミーティング途中に設けた授賞式で上機嫌に語る永田。と思ったら、

「でさー」

と言い、急に真顔になる永田。

「吉田くん、吉田くん。ちょっと俺の見間違いだったら悪いから、自分の口から言ってもらいたいんだけど、吉田くんは結局3か月で何台だったんだっけ?」

永田が吉田を見ている。
吉田だけをまっすぐに見ている。
あの眼。
あれは、クソにたかるハエを見る時の眼だ。

「は? ゼロだけど」

特に悪びれもせずに言う吉田。

「そうかー、やっぱりゼロかー。つまりこの3か月間、吉田くんはウンコしてトラックぶつけてただけってことだよね」

「は? 別に強制じゃないでしょ? 何でディスられなきゃ…」

「ディスってねーよ! 事実を淡々と話してるだけだろ!!」

で、バシィーーーーーン!!

わー、永田、また机叩いてんよ。。

「まーまー、永田さん。個人攻撃はやめましょう。あなたらしくもない」

と、珍しくしゃしゃり出て来る専務。

…あなたらしくもないって、吉田を徹底的に詰めて口答えしてきたら怒鳴って机を叩くなんて、もはや永田のお家芸だと思うんですけどー。

「社長や永田さんとも話したんだけど、どうやったらドライバーのみんなにもっとやる気になってもらえるのか、そしてもっともっと稼いでもらえるのか、事務所の中でちょっと話をしました」

と専務は語り始めた。要点をまとめると、

・日給をちょっと1000円下げる
・その代わり、発見報奨金を倍の2000円にアップ
・3か月トップ賞を10万円にアップ
・買取ボーナスを25%アップ
・年間トップ賞を倍にする

「ん? 日給を1000円下げることに、みんなドン引きしてる? これはね、ボクは前から思ってるんだけど、日給ってそもそも何かねって話でね。キツいバラ仕事しても楽なパレ仕事しても日給は同じってちょっとおかしいと思わない? 本来はそういうところは手当なりなんなりで報いていかなくちゃいけないんだろうけど、ウチみたいな小さい会社はなかなかそこまで手が回らなかったんだね。みなさんには本当に申し訳ないなあと思っていたところに、永田さんから今回のご提案をいただいてね。これでウチの会社にも、その頑張りに応じて頑張った人がちゃんとその分の報酬をもらえる素晴らしいシステムが出来たね、と社長もたいへん喜んでいました。というわけで、今月からこのシステムでいきますから、みなさん、よろしくどうぞ!」

満面の笑みで語る専務。

「ま、何もないと思うけど、何か質問ある人いるかな。まあいないよね?」

前置きの言葉といい、専務からにじみ出ている「下郎の分際で専務に質問しようとは甚だ無礼であろう」なこの雰囲気。これ、手ぇ上げられるやつなんておるんかいな。。

「せんむ、ちょっといいっすか」

きた! 手を挙げたのは、釜本だ。以前、永田から一矢を報いた唯一の男。吉田の飲みの誘いを容赦なく秒で断った男。行けい、釜本! 持ち前のADHDさ全開で空気を読まずに、そのまままっすぐドケチを斬れ! 専務を討ち取ってしまえいっ!!

「バラとパレットで同じ日給は不公平だなーというのはオレも前から思ってて。でも、今回、日給は一律で1000円下がるんですよね? 払う日給が1000円減るんだから、そりゃ会社にとってはいいシステムでしょうよ。そこは分かります。でも、オレらにとっては何がいいのか全然わかんねーっす」

「ははは、なるほどそうか、そういう風に捉えちゃったんだ。違う違う、釜本くん、全然違うんだよ。ドライバーのみんなに注目してほしいのは、頑張った分だけちゃんと報酬をもらえるってとこ。そこはちゃんと事務所サイドでちゃんと計算してます。完璧にシミュレーションもして、うんこれは間違いなくドライバーのためになるよねってことで、社長の了解もちゃんと取れているから。だから、そこは絶対的に心配しなくても大丈夫。安心してください」

( ゜,_・・゜)ブブブッ
何やこの回答。
専務、結構アホやな。。

口を開けたまま専務の回答を聞いていた釜本は、

「日給が千円減りますー、頑張った分はもらえますー、心配しなくても大丈夫ですー。…で、結局オレらにとっては何がいいんです?」

専務の笑顔がちょっとひきつり始めている。。

「あー、そこから? なんだ、釜本くん、意外とアタマ固いな。ごめんごめん、そこにちょっとびっくりしているボクがいるって感じ。ははっ。なんて言うかなあー、木を見て森を見ず、って言葉があるけれども。釜本くんは木を見過ぎているんだね。ボクは森の話をしている。もちろん、事務所の中でもしていたのは森の話なんだ」

と専務が話している途中で釜本がしびれを切らし、

「だからあ! オレらにとっては何がいいのかって聞いてんだっつーの!!」

と怒鳴り口調で言いやがった。わはは。

いいぞ、釜本!
専務を殺ったれい!!


釜本の怒声を聞いて、専務の顔から作り気味だった笑みが消えた。「あ゛あん? っつーのだと? っつーのって、誰に言ってんだ小僧。ナメた口きいてけつかりやがって」とボソっと言った後、みるみる目が吊り上がったと思ったら、バシーーーン!と机を叩き、

「今岡あああああ!! おまえはどんな教育しとんじゃああああ!!」

と拡声器なみの大声で今岡リーダーを怒鳴りつけ、机にあったペンを拾ってオーバースローで今岡へ投げつけた。

う、うわあ。。
専務ってMAXにキレると物投げつける系の人じゃん。やっべー。

「いや、違う違う。専務、言ったの俺じゃないって、釜本だって。俺言ってないって」
「いまおかああ! 全部おまえが悪いんじゃあああ!!」
と叫びながら今岡につかみかかった。専務の変身を知っている者は慣れた手つきで机やイスをどかしたりずらしたりし、初めて知る者はイスに座ったまま「え」「うそ」「まじか」と呆然とつぶやくのみ。専務は、「だから専務違うって」と叫ぶ今岡をそのままものすごい力で引きずって事務所という巣穴へ消えた。
巣穴からは、本来サブウーファーからしか聴こえてこないはずの重低音が断続的に響いており。

重い空気で静まりかえるミーティングルーム。
口を開いたのは、釜本。

「永田さん、モンスターいなくなっちゃったみたいなんで代わりに答えてもらっていいっすか?」
「んん? 俺か? まー、元のアイディアは俺が提供したんだけど、給料面の細かい数字とかは社長と専務で決めてるから、俺は実際のところは何も答えられないんだわ」
「えー。永田さん、もう正直ベースでいきましょうよ、正直ベースで。ブッチャケ今回の変更って本当にオレたちのためなんすか」
「俺の原案では、ちゃんとそうなってる。後は社長のサジ加減でどうなったかだな。ま、来月再来月の給料明細を見ればその辺はハッキリするだろ。とにかく俺は、今までも言ってきたように、この会社をナンバーワンにすることが使命だし、それが当然できると思っている。もし、それが信じられないなら辞めちまえっちゅーの!! なんつって」

シーン。
「っつーの!」でもう既に一人、犠牲者が出てんだよ。
笑わねーよ、誰も。

永田は、専務が投げたペンを拾いながら、
「これさー、実は俺のペンなんだよね。ほら、ここに名前入ってるでしょ? 専務、人のペン投げちゃうんだもんなー、ひどいよなー。物を大切にしない人は、結局は人も大切にしないんだぞお。あ、これは独り言だから」

そう言えば、永田の下の名前って何ていったっけ? と思ってペンを見せてもらったら、

Nagata No.1

うわぁ。
ダッサ! ハッズ!!

自分のペンに「Nagata No.1」とネームを入れている男、
その名は永田。

(つづく。…つづかないかもw)

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