※今回はちょっと番外篇w

昼前出社だった、ある日のこと。

点呼場兼休憩室へ行くと、つやつやロングヘアーのおねいちゃんがイスに座っていた。
「あ、おはようございます〜」
振り返ってそう言い、にこりと笑った。

おおお、おっとー! めるるやんけ!!

と思わず言いそうになったほど、めるる似の美形。


なんだなんだ、生命保険の営業か??

と一瞬思ったものの、なぜかウチの制服を着ているぞ。。

「今日からお世話になります、藤田です! あは」

えーーー。
うっそーーーー。
そのルックスで、なぜトラックドライバーーー。
そして、なぜこんな零細弱小うんこ運送屋に来てんのーーーー。

聞けば、24歳。
元々は、ぶつけん坊将軍・吉田行きつけのキャバクラの女のコだったそうな。
それがコロナで失業し、なぜか吉田のつてで入社したんだとか。

吉田に、まさかこんな才能があったとわっ?!
そいや、あいつ、お姉さんいるって言ってたな。お姉さん持ちの男って、女心掴むのホント上手いよね。

今までは新人が来ると、その教育係はほぼ今岡リーダーだったのに、今回はなぜか永田が担当することに。

ちなみに永田、バツ2、現在独身。
今まで書いてきたように、いろいろパワフルでエネルギー度高し。
英雄、色を好む、と言うが。…果たして永田は??

「永田さん、トラックの乗り方だけじゃなくて、男の乗り方まで教えてたりしてなあ!」
と軽口を言った木下をぶん殴りそうになってる吉田。

* * *

ある日のこと、22時過ぎに帰庫して点呼をしに事務所へ行ったら、釜本がちょうど帰るところだった。

「そう言えば株六さん、藤田のアレって、知ってます?」
「藤田のアレ? なんそれ」
「実はよっしーが用意した、永田さんへの刺客って噂っすよ」
「ハァ〜? 刺客う?? 藤田があ? むしろ、ちんぽ刺してんのは永田さんの方だろ」
「…あーあー、ちんぽ言っちゃったよコレ」

そして。
しばらくは、何もなかった。

永田は今日もめるると仲良く出庫していく。
いいなー、めるるが横に乗ってたら、そら楽しいやろな〜。

「ダメだよめるる、ギアはもっと優しく握らなくっちゃ」

とか言ってんのかなー。バカヤロー、永田のバカヤロー!

1ヶ月ほどして、藤田は無事に独り立ちした。
キャバクラで鍛えた接客能力のおかげか、人当たりが良くて気が利く。にじみ出る雰囲気が優しく、何よりもあのルックスであの若さ。お客さんにももちろん好評だった。荷積み先である某菓子メーカーの二代目スケベ副社長に飯に誘われたとか誘われてないとか。

* * *

ところで、この会社の給料は激安だけど、休憩室にあるペットボトルや缶なドリンクは飲み放題で、用意されているおやつ的なお菓子&軽食も好きなだけ食えた。

「こんなしょっぺーもんがタダより、日給を上げてほしいよな」
「いやいや、無理っしょ。社長、ドケチやし」
「でも、俺が前にいた会社は、ドリンクすらも自腹だったっすよ。そこと比べれば、ここの方がまだ全然マシっす。むしろいいなって感じすらします」
「なにマンマと飼いならされてんだよ。どー考えてもドケチだろ、あいつら」

そんな会話をしてからしばらくして、唐突に、
「一日、一人2本まで」
とドリンクを制限する掲示が冷蔵庫に貼られた。

休憩室にも防犯カメラがあるので、この間の会話を社長が聞いてもーてブチ切れたからだ、という奴もいたし、永田の腹案のせいで支払う手当てが増えたことに気づいた経営層が早速ケチり始めたんじゃねーの? という奴もいた。

いずれにしろ、この会社の経営層のケチさ加減は半端ない。

* * *

本数制限の掲示が出てから4日後くらいだったろうか。
東名の事故渋滞のせいで、0時過ぎに帰庫した時のこと。

事務所の前に、藤田の車が停まっていた。
「あー、あいつも事故渋滞に巻き込まれてたんだな」
と思いながら階段を上がっていくと、【休憩室用】と書かれたダンボールを抱えて藤田が階段を降りてきた。

「あ!」

俺に気づいた藤田が一瞬「やっべー!」という顔をしたのを、見逃さなかったぞ、オリわ!

「おぉ、藤田、お疲れ」
「お疲れ様です! 株六さんも東名のアレ? 私だけじゃなかったんだー、ちょっと嬉しいです。(ё▽ё) きゃは!

と、まぶしい笑顔を見せる藤田。
しっかしホントにめるるに似とるなー。その笑顔、激カワやん。
…いや、ちゃうちゃう。ちゃうやろ。

藤田よ。
抱えているそのダンボールはなんぞや?
一日一人2箱じゃなかったよな?
それはアカンで。いくらめるるに似てても、それはアカンて。

と、一瞬ツっこもうかと思ったけど、すぐにイヤな予感がしてやめた。

だって。
この、深夜の事務所には。
俺と藤田しかいない。
わけなんです。

正義感丸出しでツッコんだりすると、

「キャアアアア!! このハゲの男が待ち伏せをしていて、このハゲの男にレ〇プされそうになったんです、あたし!! そうです、このハゲの男です!」

とか叫び出しかねんぞ、こういうタマは。

一方は40代後半のズルムケ頭なハゲオヤジ、もう一方は24歳つやつやロングヘアーで笑顔のステキなめるる。
世間はいったい、どっちの言い分を信じるよ?

「分かる、分かるよ。出来心っちゅーやつだよね、うん、うん、分かる、分かってるんだ。大丈夫、とりあえずパトカーに乗ろう。署でね、話はちゃんと署のほうで聞くから」

そんなリスクを負う意味がいったいどこにあるう?
しかも、ドケチ経営者たちのためにい?


それからしばらくして、藤田は辞めた。
午前10時点呼なその当日の朝9時半くらいに、退職請負NPOみたいなところから事務所にいきなり電話がかかって来て、
「昨日付で藤田は辞めます」
と一方的に通告してきて退職したんだそうな。

ほえ〜、こんな会社の辞め方ってあるう?
さすが20代、今風の若者だね〜。今風の若者ですね〜。

これ以降、キツイ配車が続いた時などに、
「俺ももう藤田っちゃおっかなー」
と愚痴るのが社内で流行w


藤田がいなくなった休憩室では、

永田が一発ヤってすぐに捨てたから深く傷ついてしまったんだ!

とか、

永田をハメるつもりが逆に永田にハメられてすっかり夢中になった藤田に吉田が激怒してストーカー化したため辞めざるを得なくなったんだ!

とか、

某菓子メーカーの二代目スケベ副社長にラブホへ連れ込まれそうになってグーパンチをお見舞いしたら、それ以降の荷物がすべてキャンセルになってもーて、その責任を取らされたんだ!

とか。
いろいろ噂はあった。

「永田さん、藤田ってなんで辞めたか知ってますか?」
「藤田なー。うーん、一言で言えば、『ナンバーワンを目指す会社には、ふさわしくなかった』ってことかな」
「なんすか、それ」
「なんつーか、すごい美人で気も利いて、とても優しくて性格も良い。
そんな女性に、何もないわけねーだろ、ってこと。あるんだよ、もちろん裏の顔がさ。ないわけがない。藤田の件も、ま、そういうことなんだよ」

俺が見たのも、裏の顔だったのだろうか。
いや、あんなもんじゃねーだろ、裏の顔って。

てっぺんの風景だけじゃない、いろいろと裏の顔も見てきた男、
その名は永田。

(つづく。…つづかないかもw)

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